南紀熊野ジオパークを学ぶ

ラムサールとの連携について

ラムサール条約湿地「串本沿岸海域」と南紀熊野ジオパーク

ラムサール条約とは

ラムサール条約は、1971年にイランのラムサールで採択された、湿地の保全と賢明な利用(ワイズユース)を進めるための国際条約です。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」ですが、実際には水鳥の生息地に限らず、湖沼、河川、干潟、藻場、マングローブ林、さらにはサンゴ礁や水深6m以浅の海域なども「湿地」に含まれます。ラムサール条約は、湿地を守るだけでなく、地域の自然と人の暮らし・学び・観光との調和を図りながら、持続可能に活かしていくことを重視しています。


ラムサール条約湿地「串本沿岸海域」

和歌山県串本町の「串本沿岸海域」は、2005年11月8日、ウガンダで開催されたラムサール条約第9回締約国会議で登録されました。登録面積は574haで、錆浦海岸地区355ha、潮岬西岸地区205ha、通夜島北岸地区13.7haの3地区からなります。ここは熱帯域のような地形としての「サンゴ礁」が発達しているわけではなく、岩礁の上にサンゴ群集が広がっています。串本沿岸海域の最大の特徴は、本州中部の比較的高緯度に位置しながら、黒潮の強い影響を受けて、多様で大規模なサンゴ群集が発達していることです。とくに、クシハダミドリイシなどのテーブルサンゴ群集や、通夜島周辺に見られるオオナガレハナサンゴの大規模群落は、国内でもきわめて貴重です。串本沿岸海域では120種以上のサンゴ類が確認されており、美しい海中景観と高い生物多様性が評価されて登録につながりました。

 

串本沿岸海域が評価された理由は、自然の希少性だけではありません。地域のサンゴ保全活動がラムサール条約湿地の維持には重要です。例えば、串本町内のダイビングショップ等によるサンゴ食害生物やオニヒトデの駆除など、地域ぐるみの保全・管理の取組があります。また、串本町は、ラムサール条約登録海域および周辺環境の保全事業や、環境保全活動への支援を継続しています。こうした積み重ねが、串本の海を「守りながら活かす」地域の姿勢として評価されています。


ラムサール条約では、保全とあわせて「ワイズユース(賢明な利用)」が重視されています。串本沿岸海域では、海中景観や豊かな生物相を活かしたダイビング、スノーケリング、海中観察などが行われており、自然を損なわずにその価値を学び、体感する場となっています。株式会社串本海中公園センターは、日本で最初に指定された海中公園地区を含む海域に位置し、串本の海の魅力を多くの人に伝えてきました。自然の価値を知り、その大切さを理解してもらうことは、保全を将来へつなぐうえでも重要です。

南紀熊野ジオパークとの関わり

串本沿岸海域は、黒潮と大地の条件が生み出した特別な自然を体感できる重要な場所です。串本のサンゴ群集は、暖流である黒潮の影響を強く受ける海と、紀伊半島南端の地形・地質条件の組み合わせの中で成立しており、まさに「大地と自然のつながり」を示す良い例です。さらに、串本沿岸海域のサンゴは、地域の暮らしや建築文化とも深く結びついていました。海岸に打ち上げられたサンゴ片を焼いて石灰にし、漆喰(しっくい)の原料として利用されていました。昭和40年代ごろまで、海岸沿いにはサンゴを焼く窯があり、そこで作られた石灰は「熊野灰」と呼ばれ、漆喰などの材料として大阪方面にも出荷されていたとされています。


南紀熊野ジオパークでは、「串本海中公園」を生物・生態系サイトの一つとして、世界最北級の大規模サンゴ群集と、その背景にある自然環境を発信しています。 例えば、串本海中公園センター、環境省、串本町と連携し、パネル展の開催や、観察会などを通して地域の子どもたちや来訪者に向けた普及啓発に取り組んでいます。

未来へ引き継ぐために

串本沿岸海域は、黒潮の恵みのもとに成立した、世界的にも貴重な海で、地域の人びとの生活を支える資源でもありました。一方で、海の環境は常に変化しており、その価値を将来へ引き継ぐためには、調査・保全・適正利用・教育普及を地域ぐるみで続けていくことが欠かせません。ラムサール条約湿地としての「串本沿岸海域」は、海の豊かさを守るだけでなく、その価値を地域の学びや観光、誇りへとつなげていく場でもあります。南紀熊野ジオパークも、関係機関や地域のみなさんと協力しながら、この海の魅力と大切さを伝えていきます。